界面活性剤の働き(作用・機能)

界面活性剤は私たちの身のまわりや、さまざまな産業でいろいろ有益な働きをしていることがわかりました。
では、この界面活性剤が分子設計された結果、どのような種類のものがあるのでしょうか。
主な性質も含めわかりやすく説明しましょう。

 

界面活性剤の基本構造

界面活性剤は、ひとつの分子の中に「水になじみやすい部分(親水基)」と「油になじみやすい部分(親油基または疎水基:これからの説明には原則として疎水基の方を用います)」の両方をあわせもつという特徴をもっています(下図を参照)。

界面活性剤の分子構造

 

界面活性剤の主な性質

ひとつの分子の中に親水基と疎水基をあわせもつというこのたいへんユニークな化学構造のため、界面活性剤はいろいろな性質を示します。その中から基本的な性質について説明しましょう。

①表面張力(界面張力)の低下

静かに水をコップに満たしていくと、水はコップの端から盛り上がってもこぼれません。これは水がお互いの分子同士で強く引き合っている(表面張力が強い)からです。ここに薄めた台所洗剤を1滴たらすと、表面張力が弱まって盛り上がった部分の水はこぼれてしまいます。なぜ表面張力が弱まるのでしょうか?
台所洗剤に含まれる界面活性剤は一瞬のうちに水の表面に配列して表面を覆ってしまいます。この時に界面活性剤は親水部分を水の中に入れ、疎水部分を空気中に突き出して配列しています。すると、水の表面はあたかも疎水性の表面のようになってしまいます。疎水性の表面は表面張力が弱いために盛り上がることができずに、溢れてこぼれてしまいます。

表面張力の低下による界面活性剤の働き

②分子の集合とミセルの形成

水に溶けている界面活性剤はその濃度が低い場合には1つの分子がばらばらに存在するよりも、界面(表面)に集まって配列しやすい性質をもっています。このような現象を吸着と呼んでいます。
さらに水中の界面活性剤濃度を高くしていくと水面は界面活性剤の分子で満員になり、水中では数多くの界面活性剤分子がお互いに集まり、親水基を水側に向けた球体(ミセル)をつくっていきます。(このときの濃度を臨界ミセル濃度といいます)ミセルができると水に溶けない油を水の中に添加した場合、その油をミセルの中に取り込む(可溶化)こともでき、外見では油が水に溶け込んだように見えます。

界面活性剤の分子構造

界面活性剤には以上ご説明したような基本的性質があり、これらの性質によって、前章でお話したようなさまざまな働きをしているのです。

 

界面活性剤の種類

界面活性剤は数多くの機能を発揮する(活性を持つ)ために分子設計され、大きく分けて4つのタイプが存在します。それぞれ水に溶けた時に、電離してイオン(電荷をもつ原子または原子団)となるイオン性界面活性剤が3タイプあり、イオンにならない非イオン(ノニオン)界面活性剤の1つとで合計4つのタイプがあります。
またイオン性界面活性剤の3つのうち、水に溶けた場合のイオンの種類により、アニオン(または陰イオン)界面活性剤、カチオン(または陽イオン)界面活性剤および両性(陰イオンと陽イオンの両方を併せ持つ)界面活性剤に分類されます。

界面活性剤の種類

アニオン、カチオンおよび両性界面活性剤は、親水基の種類と疎水基の種類や原料によってさらに詳細に分類され、非イオン界面活性剤も親水基や疎水基の原料および疎水基の種類によって詳細に分類されます。それぞれの特長と主な用途を示します。

活性剤の種類 特徴 主な用途
アニオン界面活性剤 乳化・分散性に優れる
泡立ちが良い
温度の影響を受けにくい
衣料用洗剤
シャンプー
ボディソープ
カチオン界面活性剤 繊維などへ吸着する
帯電防止効果がある
殺菌性がある
ヘアリンス
衣料用柔軟剤
殺菌剤
両性界面活性剤 皮膚に対してマイルド
水への溶解性に優れる
他の活性剤と相乗効果あり
シャンプー
ボディソープ
台所洗剤
ノニオン界面活性剤 親水性と疎水性のバランスを容易に調整できる
乳化・可溶化力に優れる
泡立ちが少ない
温度の影響を受けやすい
衣料用洗剤
乳化・可溶化剤
分散剤
金属加工油

4つのタイプの界面活性剤の特長と用途を詳しく説明しましょう。
「活性剤の種類」の各項目をクリックすると、詳しい説明にスクロールします。

水に溶けたときに、疎水基のついている部分がマイナス(負)イオンに電離する界面活性剤で、石けんをはじめ古くから多くの種類が開発されてきており、現在でも合成洗剤やシャンプーなど、その使用量は全界面活性剤の約1/3を占めています。

【代表的なアニオン界面活性剤】

カルボン酸塩(石けんなど)

天然の牛脂やヤシ油、パーム油などが原料として用いられ、洗浄力、泡立ちおよび泡の安定性に優れているため身体洗浄剤に使用されています。
ただし、低温では洗浄力が低下し、また硬水では石けんカスが生じるため使用は困難です。工業用ではロジン石けんも含め合成ゴムやプラスチックの製造時に、乳化重合用乳化剤として使用されています。また近年、身体洗浄剤の原料として低刺激のアルキルエーテルカルボン酸塩が使用されるようになってきました。

スルホン酸塩(LAS、AOS、MES、スルホこはく酸塩など)

直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)は洗浄力、浸透力に優れ、水の溶解性や気泡性と適度な泡安定性を有しており、価格も低いことから家庭用合成洗剤の主力界面活性剤として、大量に使用されています。
α−スルホ脂肪酸メチルエステル塩(MES)、α−オレフィンスルホン酸塩(AOS)も洗浄力、起泡力、生分解性に優れたアニオン界面活性剤で、合成洗剤原料として使用されています。
ジアルキルスルホこはく酸塩は、特に浸透力に優れた界面活性剤として知られています。
また、ナフタレンスルホン酸塩のホルムアルデヒド縮合物は固体の分散力に優れ、セメント混和剤として広く使用されています。

硫酸エステル塩(AS、AESなど)

高級アルコールを硫酸化して得られるアルキル硫酸エステル塩(AS)は、溶解性や洗浄性が石けんより優れ、硬水に対しても使用できるため、家庭用や工業用の各種洗浄剤として広く使用されています。
高級アルコールに酸化エチレン(エチレンオキシド)を付加して硫酸化したポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩(AES)は、ASに比べ、水溶性や他の成分との相溶性が向上、また皮ふや眼に対する刺激が低いことから液体洗浄剤(シャンプー、台所洗剤など)の基剤として大量に使用されています。

その他

高級アルコールやその酸化エチレン付加物などのりん酸エステル塩は、洗浄剤、帯電防止剤および乳化剤などに使用されています。
また近年、シャンプーの原料として低刺激性のアシル−N−メチルタウリン塩などのアミノ酸型活性剤の使用が増えてきています。

水に溶けたとき、疎水基のついている部分がプラス(正)イオンに電離する界面活性剤で石けんとイオン的に逆の構造をもっているため「逆性石けん」と呼ばれることもあります。 繊維や毛髪などのマイナス(負)に帯電している固体表面に強く吸着し、柔軟性、帯電防止性、殺菌性などを付与することができます。
構造的にはアミン塩型と第4級アンモニウム塩型に分類され、繊維の柔軟剤、へアリンス基剤や殺菌剤として第4級アンモニウム塩型が広く使用されています。

水に溶けたとき、アルカリ性領域ではアニオン界面活性剤の性質を、酸性領域ではカチオン界面活性剤の性質を示す界面活性剤です。
一般に使用されているのはほとんどがカルボン酸塩型で、さらにアミノ酸型とベタイン型に分類されますが、ベタイン型は皮膚や眼に対する刺激性が弱く、他の活性剤と組み合わせて洗浄性や起泡性を向上させる補助剤として広く使用されています。

水に溶けたとき、イオン化しない親水基をもっている界面活性剤で、水の硬度や電解質の影響を受けにくく、他の全ての界面活性剤と併用できます。
この使いやすさと浸透性、乳化・分散性、洗浄性などの性能面での特徴が認められ、近年、非イオン界面活性剤の使用量の伸びは大きく、アニオン界面活性剤とならぶ主力界面活性剤になっています。非イオン界面活性剤は分子内の主要な結合の仕方により、エステル型、エーテル型、エステル・エーテル型およびその他に分類されます。

【代表的な非イオン界面活性剤】

エステル型

グリセリン、ソルビトール、しょ糖などの多価アルコールと脂肪酸がエステル結合した構造をもち、非常に安全性に優れるグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルおよびしょ糖脂肪酸エステルは食品添加物として認可されており、食品の乳化剤や化粧品分野で広く使用されています。
このタイプの非イオン界面活性剤は「多価アルコール型」とよばれることもあります。

エーテル型

高級アルコールやアルキルフェノールなど水酸基をもつ原料に、主として酸化エチレンを付加させてつくられるタイプで、非イオン界面活性剤の中で最も代表的な界面活性剤です。

ポリオキシエチレン(またはPOE)アルキルエーテル

〔AE、アルキル(またはアルコール)エトキシレート、アルキル(またはアルコール)ポリエトキシレートともいう〕
疎水基原料として天然系または合成系の高級アルコールを用いており、性能面、価格面ともに競争力があり、家庭用、工業用ともに最も多く使用されている非イオン界面活性剤です。また、酸化エチレンの一部を酸化プロピレンに代えたタイプもあります。
また脂肪酸メチルエステルに酸化エチレンを付加した脂肪酸メチルエステルエトキシレート(MEE)も衣料用洗剤の主要成分として使用されています。

ポリオキシエチレン(またはPOE)アルキルフェニルエーテル

と呼ばれるエーテル型非イオン界面活性剤があります。疎水部分にベンゼン環を含んでいることから可溶化力に優れ、洗浄剤の成分として用いられてきました。しかし、親水基のポリオキシエチレン鎖は容易に生分解しますが、残った疎水基(アルキルフェノール)は生分解速度が遅く、環境保全の観点からもAEへの代替が進んでいます。

その他のエーテル型

疎水基としてポリプロピレングリコールを用いたポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールは泡立ちが少ないため、低起泡性の界面活性剤として各種用途に使用されています。

エステル・エーテル型

グリセリンやソルビトールなどの多価アルコールと脂肪酸とからなるエステルに酸化エチレンを付加したタイプで、分子中にエステル結合とエーテル結合の両方を有しており、主に乳化剤や分散剤として使用されています。
また、「エーテル型」と「エステル・エーテル型」はともに酸化エチレンを付加したタイプなので、「ポリエチレングリコール型」とよばれることもあります。

その他

疎水基と親水基がアミド結合で結合したタイプの脂肪酸アルカノールアミド型は、それ自体では水溶性が低くて単独での使用はありませんが、硫酸エステル塩(AS、AESなど)と組み合わせることにより安定な泡を形成するので、洗剤などの泡安定剤として使用されています。
さらに最近登場した糖類(ぶどう糖等)を原料とするアルキルポリグリコシドは、皮膚刺激性が非常に低く、洗浄力や起泡力に優れた界面活性剤として注目されています。

 

その他の界面活性剤

その他、最近では分子量が大きい高分子界面活性剤や他の物質と反応することのできる反応性界面活性剤などが開発されてきています。また、もともと生体内に存在し細胞膜などを構成しているレシチンや、植物界に広く分布するサポニンなども界面活性剤の仲間です。

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