古く、紀元前からメソポタミア地方では、最も古い界面活性剤である石けんがつくられ洗浄に利用されており、日本には16世紀の安土桃山時代に伝えられました。
明治の始めに初めて工業的に石けんが作られてから、日本の界面活性剤工業は100年以上の歳月を経て、私たちの身のまわりから殆どの産業分野にまで幅広く使われるまでに成長してきました。
ここでは、日本の界面活性剤工業の歩みと現状をまとめてみました。
界面活性剤工業の歩み
①明治時代から昭和40年(1965)まで
明治初期の石けんの登場と昭和初期の高級アルコール硫酸エステル塩の開発により洗濯や身体の洗浄だけでなく、繊維工業で使用されはじめました。
第2次世界大戦後の復興がスタートし、昭和25年(1950)に当工業会の前身の「日本繊維油剤工業会」が設立されました。同年にアルキルベンゼンスルホン酸塩系合成洗剤の工業化が始まり、非イオン界面活性剤とカチオン界面活性剤も導入され、昭和31年(1956)には両性界面活性剤が登場しました。
昭和30年代に入り、合成洗剤が電気洗濯機の普及とともに急成長しはじめ昭和38年(1963)には洗剤の主役の座は石けんから合成洗剤に移り、工業用では合成繊維の発展に合わせ繊維分野中心に界面活性剤の使用が急増しました。
②昭和40年(1965)から昭和60年(1985)まで
合成洗剤の消費拡大に伴ない湖や河川の汚染が問題化し、従来のハード型(ABS)からソフト型(LAS)に転換し無リン洗剤が登場してきました。
界面活性剤は繊維以外の産業分野での需要が拡大し、2度のオイルショック〔昭和48年(1973)、55年(1980)〕での落ち込みはありましたが順調に成長し、昭和59年(1984)には用途開発が進んだ非イオン界面活性剤の出荷量がアニオン界面活性剤を追い越しました。2度にわたるオイルショックから石油以外のエネルギー源への関心が高まり昭和57年(1982)頃からCOM(石炭・石油混合燃料)、CWM(石炭・水分散燃料)などへの界面活性剤の応用研究が進みました。
③昭和60年(1985)から現在まで
需要家産業の成熟化と海外進出による空洞化などにより、界面活性剤も平成4年(1992)をピークにバブル崩壊後は一進一退を繰り返しています。また、繊維分野の比率は20%を割り、ゴム・プラスチック、土木・建築、化粧・医薬、生活関連などの比率が増大しました。
国際的にも環境問題の重要性が増大し、洗剤のコンパクト化の進展や特定フロンの使用禁止による代替洗浄剤の開発などにより非イオン界面活性剤の使用がさらに増大してきました。
界面活性剤工業の現状
①界面活性剤の需給動向(図−1、2を参照)
平成28年(2016)の界面活性剤の生産量は1,109,750トン、販売量は890,663トン、販売金額は2,569億円であり、ファインケミカル製品としてはかなりまとまった市場規模をもっています。 イオン別では、生産および販売数量・金額ともに、何といっても非イオン界面活性剤が主力で、生産量では54.4%、販売量では56.7%、販売金額に至っては65.1%を占めており、現在も増加が続いています。二番手は陰イオン界面活性剤で、生産量では37.1%を占めています。ここ十数年減少し、5年ほど前より増加傾向となり、この3年間は安定しています。この二つで9割強を占め、次いで陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤の順に続いています。 非イオン界面活性剤が伸び続けているのは、広範な機能を発揮させやすく使い勝手がよいことがあげられ、衣料用の液体洗剤に多く使用されているためです。
図‐1 界面活性剤イオン別販売数量推移図(昭和55年〜平成28年)
図‐2 界面活性剤販売数量・イオン別構成比推移図(昭和55年〜平成28年)
②界面活性剤の需給動向(図−3を参照)
もともと界面活性剤は紡糸、紡績、製織、編み立て、染色整理、仕上げにいたる多くの工程で使用する繊維産業を最大の需要分野として、技術を磨き成長してきましたが、産業構造の変遷に伴い、需要分野は変化をし続けています。 繊維分野の比率は激減した後に緩やかに安定しておりますが、香粧・医薬、土木・建築、生活関連、界面活性剤工業等の分野は伸張しています。界面活性剤の機能を高めることで、新たな需要分野の掘り起こしと現有分野での拡大が期待されます。
図-3 界面活性剤・需要分野別構成比推移図(平成7年〜平成28年)
③界面活性剤の輸出入動向(図−4、5を参照)
グローバル化の進展に伴い、ここ数年界面活性剤の輸入実績は順調な伸びを示していますが、輸出実績は、減少の傾向を示しています。平成28年(2016)の輸出は83,922トン、392億円であり、一方、輸入は68,714トン、136億円でした。イオン別では輸出入ともにアジアが大部分を占め、次いで輸出ではアメリカが、輸入ではヨーロッパが続いています。 なお、平成23年に輸入量が急激に増加したのは、東日本大震災により国内での生産では需要に対応できなかったためです。
図-4 界面活性剤輸出入数量実績推移図(昭和55年〜平成28年)
図-5 界面活性剤輸出入金額実績推移図(昭和55年〜平成28年)